SPECIAL EDITION

PHILOSOPHY VOICE Vol.04

玉島 正裕

流体テクノ株式会社 代表取締役社長
Voice 04 玉島 正裕

船舶の流体力学に基づく設計と開発で業界をリードしてきた玉島氏。造船会社での経験を皮切りに、流体研究を専門とする会社でのキャリアを積み、2000年には独自の設計支援会社を立ち上げた。現在はナカシマプロペラとの提携により、船全体の推進性能向上を目指した協業を進めている。氏が歩みの中で常に追求してきた「船の周りの流れ」への情熱とは。その原動力を伺った。

現在、どのようなお仕事をされていますか。

船型、すなわち水面より下の船の形状を、省エネルギーの観点から設計することが主な業務です。このテーマは創業から一貫して変わっていません。その他にも、船尾に取り付けることで燃費改善に貢献する装置の開発設計を行っています。船の性能を評価する水槽試験に必要な設備や、試験で使用する模型船も製作します。さらに、就航後の船舶の運航状態を計測して航海性能の評価も実施しています。業務は多岐にわたりますが、これらの基盤にあるのは、やはり「船型の開発」という考え方です。

前職ではどのようなお仕事をされていましたか。

造船所に勤務したときの船型開発メンバー7人で、船体形状の研究や船型設計のコンサルを行う会社を立ち上げました。回流水槽の製作なども行い、国内外の造船所の水槽試験を支援してきました。造船所から提出される船型の性能を確認する中では、改善点をコメントすることもありました。そのうち、「より早い船型計画段階から流体的な要素を考慮した船型設計に携わりたい」と思うようになり、今の会社を立ち上げました。

ナカシマとはどのように関わっておられたのですか。

流体テクノとして独立する前から既にやりとりはありました。ナカシマの役員の方と中国地区の船舶関連会社でチームを作り、東南アジアに視察に行ったこともあります。会社を設立してからは、顧問として技術系の会議に参加させていただいていました。私は船型の観点からアドバイスを、ナカシマはプロペラ側の観点からアドバイスを個別に行うことが多かったのが、次第に船型とプロペラを一緒に設計することについての話題が増えてきて、本格的に協業することが決まりました。

ナカシマと一緒に今後取り組んでいきたいこと、実現させたいことはありますか。

船の水面下の個々の装置を個別に考えるのではなく、船全体としての効率最大化を考えるのが大切です。船型・プロペラ・舵はそれぞれ独立して存在するのではなく、お互いの関連を考慮してはじめて、最適な性能を実現できる。これが「統合最適化」の考え方です。ナカシマの推進器と私たちの船型開発とを統合して、競争力のあるトップレベルの船型を一緒に提案できるようにしていきたいと思っています。そのために、技術者同士での情報交換や交流も密に行っていきたいです。

船に興味を持ったきっかけは何でしたか。

私は広島の島育ちで、高校のときは島から呉まで船で通学していたのですが、ある日通学船の目前を当時最大級のタンカーがドックに入るために横切って行きました。呉の街が見えなくなるほど大きな船が海上で動いている様子に心を奪われたんです。「こんな大きなものがどうやって動いているのだろう」という興味から、船舶の業界に関心を持ち始め、大学では船舶の推進性能関係の講座に入りました。

座右の銘はありますか。

『忠恕』という言葉を大切にしています。この言葉は「誠実であることを忘れず、相手の立場に立って思いやる」という意味を含んでいます。お客様に納得していただけるよう、信頼していただけるよう、この考え方を常に心がけています。

技術者の若手に伝えたい言葉はありますか?

『五感を使って現象を見つめる』ことを心がけて欲しいと思います。船体設計でいえば、たとえば目で船の周りの水の流れを観察してみる。波の形状を確認してみる。耳で異音が無いか聴きとってみる。手で船の模型を触って、その微妙な凹みや出っ張りを感じてみる。コンピューターやCFDの解析結果はもちろん大事な要素ですが、結果として出てきた数値が自分の感覚と一致するかどうかを確かめることも重要です。自分の感覚を研ぎ澄ませることで、新たな気づきが生まれると思います。

ご趣味は何ですか?

最近は歩くことが好きです。歩くことで改めて周囲の環境に変化が生まれて良い気分転換になりますし、体を動かすことで物事を別の視点から考えられると思います。歩く道中では、よく木の写真を撮ります。枝葉が空に向かって伸びていく様子や、根が地面に向かって伸びていく様子は、私にとって「流れ」の象徴のように思えます。『流れとかたち』というベジャン・エイドリアン氏の著書には「世界を動かすのは愛でもお金でもない。流れとデザインだ」という件があり、これをいつも持ち歩くノートの最初のページに書き残しています。木も水も人も情報も、その場に留まり続けることはなく、全ては「流れ」として世界を動かす原動力になっている。その流れは永続的に変化していく。そう捉えています。