
SPECIAL EDITION
PHILOSOPHY VOICE Vol.02
星野 徹二

1974年に三菱重工業に入社、プロペラ及びキャビテーションの研究に携わった後、韓国滞在を経て現在はナカシマプロペラの推進性能をバックアップしている星野氏。数多くの舞台でプロペラの研究開発をとことん突き詰めてきた彼が、今後のナカシマに期待することとは。さらに、航空工学から研究人生を出発させた氏の空をまたぐユニークな趣味にも迫った。
Q1 新卒で三菱に入社されてから、当初は何をお仕事にされていたのですか。
研究職で入社したのですが、当時は丁度プロペラキャビテーションにより誘起される船尾変動圧力による騒音や船体振動の問題が注目され始めたころで、私の入社後初めての研究はプロペラキャビテーションにより誘起される船尾変動圧力に関するものでした。結局、これが私の博士論文のテーマとなり、「キャビテーションを発生しているプロペラによる変動圧力の推定法」で工学博士を授与されました。また、プロペラ理論にも興味があり、国内外の色々なプロペラ理論の論文を読み漁っていました。幸いなことに、三菱重工には航空機部門があり、航空機に関する世界中の最新の論文が自分のもとにも回覧されてきており、それらを頻繁に読んでおりました。基本的にプロペラの翼理論は航空機の翼理論と同じですので、それらの論文の中には船のプロペラにも応用できる内容が多数含まれていました。その中でQuasi-Continuous Method(QCM)と呼ばれる優れた翼理論が目に留まり、プロペラに応用できるのではないかと考え、QCMを用いたプロペラ理論の開発を行いました。この理論を用いて自社船のプロペラ設計や性能推定に取り組みました。このQCMを用いたプロペラ理論は、現在でも国の内外の多くの研究所等で使われております。
Q2 その後韓国へ渡航されましたが、韓国での仕事はいかがでしたか?
当時の韓国の造船業界は大盛況で、勤務先の研究所にも沢山の大学卒業間もない若手研究者が働いていました。仕事の第一は、これらの若手研究者の指導育成でした。また、当時の日本では建造していなかった10,000TEUを超える超大型のコンテナ船や2軸の超大型LNG船のプロペラ開発等の案件にも携わることができ、やりがいを感じましたね。
Q3 帰国後、ナカシマに入社された経緯は?
そもそも韓国に出発する以前から、知人を介してナカシマの役員さんから「退職後はうちに来ないか」とオファーをいただいていました。当時は海外での勤務に対する思いが強く、お断りしたのですが、8年後に私が帰国したことを聞きつけたその方が改めて私にお声掛けくださり、そこで入社を決めました。
Q4 ナカシマプロペラの強みはどこにあるとお考えですか?
まず、優秀な人員が豊富なところです。様々な船会社を相手に多種多様な推進器を設計製造してきた分、お一人お一人が貴重なノウハウと経験を得られていると思います。女性のかたが積極的に活躍されているところも良いと思います。また、コンピューター解析のレベルが非常に高いところも強みだと考えています。自社で実験用の水槽を持たずとも高性能なCFDでシミュレーションができ、実海域での性能を担保できる会社はなかなか無いと思います。
Q5 今後のナカシマプロペラに期待することは?
ナカシマプロペラは日本の舶用大型推進機器業界の最後の砦だと思っています。またプロペラはこの先も最も効率の良い舶用推進器として存在し続けるでしょうから、今後もプロペラメーカーとしての火を消さず、生き残ってほしいですね。それと、人手不足なども近年の社会課題になっていますから、自動化など、革新的な取り組みにも積極的に挑戦していってほしいものです。
Q6 若手社員に伝えたい教訓はありますか?
例えば目の前に何か便利なツールやプログラムがあったとして、それが100%正しいと鵜呑みにしないこと。それらはすべて、一定の前提条件があるから成立するのであって、そこを逸脱するととたんに機能しなくなるものです。ぜひ「どのような仕組みでできているのか」を良く考えて判断してください。開発過程から携われば、その仕組みを根本から理解して使いこなせるし、既存のものよりさらに良い仕組みを思いつくことができるかもしれません。
Q7 ご趣味は何ですか?
ラジコン飛行機を組み立て、操縦することです。学生時代からクラブ活動で組み立てや操縦をしていましたし、今でも天気が良ければほぼ毎週末長崎の飛行場に足を運び、各地から集まった飛行機仲間とラジコン飛行機を飛ばしています。昔はエンジンを積んだものが主流でしたが、最近では環境負荷低減に向けた動きもあって、モーターと電池で動く電動飛行機が主流になってきましたね。船や車が水面や地面を二次元運動するのに対し、飛行機は前後左右上下と自在に移動する三次元運動です。そのぶん操縦もかなり難しく、かつそこに一番の面白さがあると感じています。