proprller museum
Nakashima Propeller
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はじめに
第1章 動力推進の幕開け
第2章 動力推進器の黎明の時代
第3章 パドルからプロペラへ
第4章 プロペラの化学のはじまり
第5章 近代海運と大戦の時代
第6章 プロペラの性能の時代
第7章 プロペラの機能の時代
参考文献


7-3.プロペラの形状を刷新したハイスキュー・プロペラ
1800年代の末期からおよそ100年間、プロペラの形状に大きな変化はなかったが、1973年になってその後のプロペラの形を一変させるプロペラが登場する。ハイスキュー・プロペラである。

スキューとはプロペラ翼の後退角のことで、一般にプロペラの翼にはプロペラの中心から計った角度で10度程度のスキューが付いている。この量を極端に大きくしたものをハイスキュー・プロペラと呼ぶ。

●図31文献6)は通常型プロペラとスキュー角72度のハイスキュー・プロペラを比較したものである。この二つのプロペラは実際に製作され、アメリカ海軍省の手で詳細な実船実験が行われた。●図32はその当時の写真で、2万4千馬力の貨物船用に設計された、直径7.9メートル、スキュー角72度のハイスキュー・プロペラの全容を見て取ることができる。

アメリカ海軍省が行った実験結果の結果は極めてセンセーショナルであった。プロペラに起因する振動が通常型の1/8〜1/10にまで減少したのである。振動、騒音に対するスキューの効果は、プロペラ翼が船底付近を通過するときに生じる圧力影響の平均化である。翼は強力な圧力源であり、これが一度に船底に近付くと船体に大きな衝撃的な力が加わる。しかし、ハイスキュー・プロペラでは、翼の大きな後退角により翼根部と先端が船体に近付くタイミングにズレが生じ、圧力影響が分散されるのである。

この実験が行われた当時、陸上交通の分野では静粛性の確保が重要な課題になっていた。一方船舶では、巨大なエンジンや波浪中を進むという悪条件から、静粛性の確保は容易ではないと思われていた。しかし、ハイスキュー・プロペラの登場により、船舶の居住性は格段に向上することになったのである。その後、ハイスキュー・プロペラは急速に普及するようになる。最初にこのプロペラに注目したのは、やはり海軍だった。潜水艦のソナーの追尾を逃れるには、プロペラの騒音を下げることが何よりも効果的だった。こうして、1979年までに、ヨーロッパだけでも艦艇用に150機のハイスキュー・プロペラが使用されたといわれている。このプロペラが一般に普及しはじめるのは1980年に入ってからで、今では大半のプロペラに設計段階でスキューの最適化が計られている。
プロペラの形状を刷新したハイスキュー・プロペラ
スキュー・プロペラの普及を促したコンピュータ
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