ここで、1900年代初頭までの潜水艦の歴史を概観しておくことにしよう。海面下の世界を探検するという野望は、人間が空を飛ぼうとした歴史とほとんど同じくらい古いといわれている。
すでに17世紀のはじめには、オールで進む木造の潜水船があったとされている。そして18世紀の産業革命を契機に、潜水艦はその発見されにくい性質から、武器としての利用がはじまる。
1775年から83年までのアメリカ独立戦争では、海戦に参加した世界初の潜水艦といわれるタートル号が登場する。タートル号はクランクでプロペラを回し前進することができた。
1801年、後に蒸気船を設計するフルトンは、ナポレオンの命令で潜水舵を備えた潜水艦を建造し、試運転に成功している。しかし、船が完成した頃、ナポレオンは潜水艦への興味を失っていた。ナポレオンの興味が持続していたなら、船舶と推進の歴史は今日のそれとは違ったものになっていただろう。
1861年にはじめる南北戦争には、ボイラーを改造して作ったハンレイ号が登場する(●図19:文献1)。ハンレイ号は、8人の乗組員が手動でクランクを回すことでプロペラが駆動し、時速7.4キロで進むことができた。ハンレイ号は敵艦を撃沈した最初の潜水艦になったが、実験中に3回も乗員を道連れに沈没し、最後には敵艦と運命を共にした。
1886年、イギリスに45馬力の電動モータ2台を備えた潜水艦が登場する。しかし、電動潜水艦には海上で充電することができないという欠点があった。
1890年になると、ガソリンエンジンで充電する方式が考案され、1900年以降アメリカ海軍を中心に、潜望鏡の発明、ディーゼルエンジンの利用と、潜水艦は武器として急速に発達していく。1900年にアメリカ海軍が採用したホーランド号は、このときすでに3000キロ近い航続距離を備えていた。
一方、ドイツ海軍も潜水艦に開発を進め、1914年にはUボートが北海でイギリスの巡洋艦三隻を撃沈する。そして翌年、1915年のルシタニア号事件を契機に第一次世界大戦へと突入するのである。
潜水艦の歴史はまさに、戦争とともに刻まれた歴史ということができる。